僕が、初めてフランコさんと出会ったのは、1991年秋。
僕は捨てられて、一人途方にくれていた。
目だけ光った真っ黒なネコに、誰も振り向かない。
でも、フランコさんは、
まっすぐ歩み寄って僕を抱き、家まで連れていった。
彼は、憧れのイタルデザインに入社したばかりのころだった。
フランコさんは、ジョルジェット・ジュジャーロ(G.G)を
「仕事の父」と呼ぶ。フランコさんのデザイナーとしての
基礎のすべては、G.Gから学んだものだ。
もっと遡れば、カーデザイナーを志したきっかけは、
5歳のときに見たマセラティボーラだ。
僕たちの住むこの家の大家さんは、G.Gの知り合いだ。
ルームメイトの突然の退去で、家賃が払えなくなり、
アパートを退去しなければならなかったフランコさん。
そんな彼をG.Gが救ってくれた。そして、僕も救われた。
彼には、僕が彼自身とダブって見えたのかもしれない。
みんなから、少し距離を置いている黒ネコの僕が。
【家から見たトリノの景色】
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